長野地裁佐久支部判決 平成11年7月14日
事案の概要
未払い残業代の請求につき、会社側がその消滅時効の援用を行ったことに対し、労働者側から消滅時効の援用が権利濫用であると主張し争った。
判決の要旨
原告らは、原告ら代理人を依頼し、前記のとおり、平成五年六月四日、被告に対し、賃金台帳、タイムカード、勤務表に基づき平成二年四月分以降の原告らの時間外手当及び深夜手当を計算の上支払うよう催告した。
しかし、被告がなおこれを無視したので、原告らは、自ら収集した前記の不完全な資料に基づき、未払の残業手当等を計算し、平成五年一〇月一日本件訴えを提起するに至った。
これに対し、被告は、自主解決の姿勢を見せず、前記の地方労働委員会の
強い要望さえ無視し、更に、原告らが残業手当を計算するに必要な資料を原告らに交付せず、裁判が提起されてからでさえ、就業規則、賃金台帳、タイムカード、警備勤務表の開示を許否し続けた上、証拠調べがほぼ終了したころ、乙号証の大半を提出し、訴訟が提起されてから約二年四か月後に時効の主張をした。
原告らは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、内
容証明郵便での請求手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。
賃金債権は二年の短期消滅時効にかかるところ、被告自らは裁判提起後
二年以上してから時効の主張をしながら、賃金について二年の時効消滅を主張することは信義に反する。
最高裁第一小法廷判決 平成12年3月9日
事案の概要
昭和四八年六月当時、上告人らXは、被上告人Yに雇用され、L造船所において就業していた。
右当時、 YのL造船所の就業規則は、Xの所属する一般部門の労働時間を午前八時から正午まで及び午後一時から午後五時まで、休憩時間を正午から午後一時までと定めるとともに、始終業基準として、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、午前の終業については所定の終業時刻に実作業を中止し、午後の始業に間に合うよう作業場に到着し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、さらに、
始終業の勤怠把握基準として、始終業の勤怠は、更衣を済ませ始業時に体操をすべく所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた。
右当時、Xは、Yから、実作業に当たり、作業のほか所定の保護具、工具等の装着を義務付けられ、右装着を所定の更衣所又は控所等において行うものとされており、これを怠ると、就業規則に定められた懲戒処分を受けたり就業を拒否されたりし、また、成績考課に反映されて賃金の減収にもつながる場合があった。
Xは、昭和四八年六月一日から同月三〇日までの間、午前の始業時刻前に、
①所定の入退場門から事業所内に入って更衣所等まで移動し、
②更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、
③午前ないし午後の始業時刻前に副資材等の受け出し等や散水を行い、
④午前の終業時刻後に作業場又は実施基準線(被上告人が屋外造船現場作業者に対し他の作業者との均衡を図るべく終業時刻にその線を通過することを認めていた線)から食堂等まで移動し、また、現場控所等において作業服及び保護具等の一部を脱離するなどし、
⑤午後の始業時刻前に食堂等から作業場又は準備体操場まで移動し、また、脱離した作業服及び保護具等を再び装着し、
⑥午後の終業時刻後に、作業場又は実施基準線から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等を脱離し、
⑦手洗い、洗面、洗身、入浴を行い、また、洗身、入浴後に 通勤服を着用し、
⑧更衣所等から右入退場門まで移動して事業所外に退出した。
Xは①~⑧の各行為はいずれも労働基準法上の労働時間に該当する旨主張してYに対し未払い割増残業代の支払いを請求していた。
判決の要旨
労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、労働者が使用者
の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによ り客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかん
により決定されるべきものではないと解するのが相当である。そして、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。
事案の概要
ビル管理会社である被上告人Yの技術系従業員である上告人Xらが,Yに対し,いわゆる泊り勤務の間に設定されている連続7時間ないし9時間の仮眠時間が労働時間に当たるのに ,泊り勤務手当並びに仮眠時間中の実作業時間に対する時間外勤務手当及び深夜就業手当しか支払われていないとして,仮眠時間について,労働協約,就業規則所定の時間外勤務手当及び深夜就業手当ないし労働基準法37条所定の未払い時間外割増残業代及び未払い深夜割増残業代の支払いを請求していた。
判決の要旨
不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していないというだけでは,使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず ,当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって,不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。
そこで,本件仮眠時間についてみるに,前記事実関係によれば,上告人らは,本件仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり, 実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても,その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めること ができるような事情も存しないから,本件仮眠時間は全体として労働からの解放が 保障されているとはいえず,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価 することができる。したがって,上告人らは,本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も 含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり,本件仮眠時間は労基法上 の労働時間に当たるというべきである。
事案の概要
原告Xは、昭和二五年四月一日被告Yに入社し、昭和四六年一一月一〇日融資管理部調査役補(支店長代理相当)に昇格し、現在は個人融資部調査役補(支店長代理相当)の地位にある者であり、Yは、普通銀行業務を営む株式会社で、Xを雇傭する立場にある者であること、Yは、昭和四九年五月分までの給与については、
就業規則の規定に基づき、平行員が平日午前八時四五分から午後五時まで、土曜日午前八時四五分から 午後二時三〇分までの所定労働時間を超える労働をした場合には、基準賃金の二割分増(但し土曜日の午後五時までについては基準賃金)の時間外手当を支給していたが、支店長代理が前記労働時間を超える労働をした場合には、前記時間外手当を支給しなかったこと、Yは、前記給与規定を改正した昭和四九年六月分以降については、支店長代理についても平行員と同一の基準で時間外手当を支給するようになったが、Xの昭和四九年五月分以前の時間外手当の遡及支払については、調整金という名目で同年四月分及び五月分について
一万一〇〇〇円ずつを支給しただけであつた。
そこで、Xが、支店長代理に時間外残業代を支給しないのは労働基準法第三七条違反であるとして支払いの請求をしていた。
判決の要旨
思うに、労基法は労働時間・休憩・休日に関する労働条件の最低基準を規定しているが(同法第三二条ないし第三九条参照)、このような規制の枠を超えて活動することが要請されている職務と責任を有する「管理監督の地位にある者」については、企業経営上の必要との調整を図るために、労働時間・休憩・休日に関する労基法の規定の適用が除外されるのであり(同法第四一条第二号)、このような同法の立法趣旨に鑑みれば、同法第四一条第二号の管理監督者とは、経営方針の決定に参画し或いは労務管理上の指揮権限を有する等、その実態からみて経営者と一体的な立場にあり、出勤退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有する者と解するのが相当である。
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